愛好家たちの声
#16
佐々木 真人
アートディレクター
pmf代表
ささきまさひとさん。2004年に自身のデザイン事務所としてpmfを設立後、雑誌や書籍の装丁デザイン、撮影ディレクション&プロデュースを手掛ける。野球、サッカーの球団や、カーレースチームのグラフィックデザイン全般も手掛けるアートディレクターとしても活躍する。
長年、エディトリアルなどのデザイナーとして活躍し、現在はFC東京や読売巨人軍などの映像等を手掛ける佐々木さん。手元に集まった数々の貴重な時計は、仕事や仲間達との記念にと一つずつ加わってきたもの。記念すべき出来事を彩ってきた時計たちとの関わり方を聞いた。
僕のデザインの師匠がとにかくセンスの良い方で、1968年製のデイトナのポール・ニューマンをしていたんです。とにかくそれに憧れて、後にそれを譲っていただくことになるんですが、今では子の時計の価値が考えられない状況になってしまった。戸惑いも感じます。1968年は妻の生まれ年でもあって、これは手に入れなければと直感したものですが、師匠との縁がなければ僕の手元にくることもなかった時計なので、特別なものを感じますね。
白ダイヤルのデイトナは、上の子が生まれた記念として2000年に購入しました。一つ前の世代のものが欲しかったんですが、なかなか買うことができずに発売されてすぐに手に入れた思い出があります。こっちのコンビのデイトナは、2009年に初めてフルマラソンを完走した記念。タグ・ホイヤーのモナコは、鈴木亜久里さんのチームとお仕事していて、セパンのレースで勝った記念にその帰りのマレーシア空港で。
時計というものはカッコいいだけじゃないんですよね。僕はファッションで着けているわけではないですし、人生の達成感を何かの形で残したいというか。今、仕事で関わっているスポーツ選手たちもそういう思いがあるようで、彼らは元々時計好きが多いんですが、いい結果を残せたり日本代表に選出されたりっていうことを記念に残すために時計を買う人がたくさんいますね。僕らの時代はロレックスが全盛で、みんなが憧れた世代。でも今の30代の若いサッカー選手にもロレックス好きは多くて、同じ感覚で話ができたり時計を集めたりできるのは嬉しいことですね。
まさにそう。FC東京と仕事をしている内に、森重真人選手と仲良くなり、彼への贈り物は時計ということが多いですね。僕が着けていたパネライのGMTを見た彼がとても羨ましがって、“それじゃあ、W杯に行くことができたらコレを贈るよ”という約束をして。代表の発表って直前までどうなるか分からないので、一応事前に時計は購入しておいて、内心ドキドキしながら発表を待って彼のいるスタジアムまで届けに行きました。パネライはイタリアのブランドで、イタリアと言えばサッカーの国。世界を飛び回ってサッカーをする選手になって欲しくて、パネライのGMTを贈ったんですね。他にも、コロナの影響で2021年の1月4日に決勝戦が行われたルヴァンカップで優勝した記念に、ロレックスのGMTマスター Ⅱを有志4人で購入しました。FC東京のチームカラーに合わせて青赤のGMTの裏蓋に、“CHANPIONS”って刻印を入れてもらった、特別な思いのある時計です。
僕は他にクルマも好きなんですが、自分が関わって動く実用的なものに愛着を感じるんです。“俺がいなきゃダメなんだな”と思うような、機械的なものというか。だからより古いものがしっくりくる感覚もあります。60年代のポルシェ356を運転するときは、同じ時代のデイトナじゃなければ自分の中で違和感があるし、そういう物を身につけて感覚を探りながらクルマを動かしている時間は堪らないものがありますね。
拭いた後、クロスに汚れはついていないのに時計がピカピカになっている感じは驚きました。オーバーホールに出して戻ってから着けていない時計もあるのでそんなに汚れていないはずなんですが、それでも輝きが違って見えるんですね。元々、頻繁にはやらないだけで、やりだすと時計の掃除も綿棒を使って隅々まで磨いたりするので、久しぶりに細かくケアしたなという感じです。
こうして触りだすと、このあたりにキズがあったなとか思い出しますね。キズはあんまり気にしていないというか、生活の中でつくものですから。一心同体のものだと思っています。やはり僕はこういう時間は好きですね。キズの一つずつを確認しながら、頭を空っぽにして何も考えずに過ごす、とてもいい時間です。