愛好家たちの声 #07 松島 紳 | Purify Time(ピュリファイタイム)

愛好家たちの声

#07

古い時計を
買うっていうのは
自分が預かる
ということ

写真:松島 紳さん

松島 紳
カンタータデザイナー

まつしましん。1990年北海道生まれ。国産にこだわり、2015年よりスタートした服飾ブランドであるカンタータデザイナー。素材や糸に至るまでこだわり抜かれた、タイムレスなアプローチで知られる。時計の哲学もまた独自のもので、その選択肢に迷いがない。

松島紳さんは、2015年に創業した自身のブランド・カンタータを手掛ける、デザイナーであり起業家だ。若くして気鋭のブランドを導く彼は、時計と食事くらいにしかお金をかけないという価値観を持つ。なぜそんな境地に至ったのか、そしていかに時計と付き合っているのかに迫った。

物は何個も要りません
だからその子を買う理由が欲しい

僕が持っている時計は主にこの3本。最初に購入したのはパテック フィリップの96(カラトラバ)で、ドレスウォッチに関してはこれ以上の物はないと思っています。デザインにしても、サイズ感にしても。ドレスウォッチはシャツのカフスに隠れる必要があるので、薄いものでないといけないですし、この96は時間も見やすい。最近ではそんなに気にされなくなっていますが、会議に時間を確認するのにも役立ちます。スマホをポンとやるのはスマートではないですから。

31歳にして、この貫禄あるコメントをする松島 紳という人物は、並々ならぬこだわりをもつ人で物選びやあらゆる選択に余念がない。時計に関しては、元々の肌の弱さも関係してステンレスではなく貴金属の時計をメインに選んでいるという。
31歳にして、この貫禄あるコメントをする松島 紳という人物は、並々ならぬこだわりをもつ人で物選びやあらゆる選択に余念がない。時計に関しては、元々の肌の弱さも関係してステンレスではなく貴金属の時計をメインに選んでいるという。

カラトラバは起業した頃に買いました。それがきっかけで試してみようと思い、4年前に手にしたのがGMTマスターですね。96は日本の夏につけるのは厳しいなと思っていたので、洗えるパテックが欲しいと思い、去年はホワイトゴールドのノーチラス 3800を買いました。買ったお店の方によると、このモデルは50本くらいしか作られていないそうで、希少性の高さも惹かれた一因です。

厳選されたコレクションで、かなり希少性の高い時計たちが集まっている。過熱する高級時計市場でレアなパテックフィリップやロレックスを手にできるのは、かなり運が良く思えるが、彼なりの買い物哲学がそれを可能にしていた。
厳選されたコレクションで、かなり希少性の高い時計たちが集まっている。過熱する高級時計市場でレアなパテックフィリップやロレックスを手にできるのは、かなり運が良く思えるが、彼なりの買い物哲学がそれを可能にしていた。

モノの価値ってどう決まると思います? 需要と供給がすべてで、例えば閉店間際の店で、その日一度もレジが空いていなかったら、安くしてでも売りたいと思いませんか? あとはカードで支払いをしない、とか。僕は元々カードが好きじゃなくて1枚しか持ち歩いてないんですが、100万円を超える買い物をするときは大体現金で支払うという流儀があります。長く付き合いたいと思ったお店では必ず現金で払いますね。だって、手数料はお店側が払っているわけじゃないですか。同じ取引で差が出るわけで、そこは人同士の付き合い方です。時計とか洋服でも希少なものを買おうと思えば、結果的にそういう付き合い方をしていると出してくれるものだと思います。

この哲学はカンタータの服作りにも生かされているようだ。
この哲学はカンタータの服作りにも生かされているようだ。

僕は自分でやっているビジネスでも、基本的に誰よりも安く仕入れていると思います。材料も工賃も。ただ、相手にメリットのある形で支払うし長く付き合う。例えば、今季出しているカンタータのアイテムで5年に一度しかリリースされない上質なリネン糸使った物があります。このシャツは11万円で出しているんですが、原料だけでカシミアの2倍はする高価なもの。普通の仕入れ方をしていたらこの値段では到底出せないんですが、僕だけの特別な条件で卸してもらえました。ここに至るまで、長い時間をかけて同じところから膨大な糸を買ってきて、ようやく回ってきたわけです。

2021年に至ってかなり昔気質な方法論のような気もするが、ビジネスや買い物の本質的なルールは変わっていないということだろうか?
2021年に至ってかなり昔気質な方法論のような気もするが、ビジネスや買い物の本質的なルールは変わっていないということだろうか?

そう思います。上質な物や技術を相手にも納得してもらう形で誰よりも安く仕入れて、なるべく買いやすい値段で売る。今の時代、デザインだけで差をつけて付加価値とするのは難しいですから、僕は本質的に良いものをお店に出せるように心がけていますね。そういう物を店頭に並べて、お店が元気になってもらわないと、僕らの商売は回らないですから。

仕事もプライベートも、一貫して考え抜かれた哲学のある松島さん。選ぶ物全てには理由があるという。
仕事もプライベートも、一貫して考え抜かれた哲学のある松島さん。選ぶ物全てには理由があるという。

僕は時計以外の物では万年筆が好きですが、自分の中で10万円のペンと100円のボールペンの価値は一緒なんですよ。書くために選ぶ物でベストな選択をするとしたら、この2本に集約されているわけで、目的のための価値は同じです。物は何個もいらなくて、だからこそその子を買う理由が欲しいんです。着る物に関しては、白いTシャツとグレーの下着と靴下しか選びません。それで毎日シャツを変えてデニムを履いて、とコーディネートはかなりユニフォーム的に考えています。物を厳選して選ぶので、買うまでに時間がかかるタイプですね。

ここまでこだわりが強いと、時計に関しても自分なりの手入れを行なっているのだろうか?最後にピュリファイタイムを試してもらった。
ここまでこだわりが強いと、時計に関しても自分なりの手入れを行なっているのだろうか? 最後にピュリファイタイムを試してもらった。

僕は元々肌が弱いので、汚い物を着けるのに抵抗があって。時計はちゃんと防水を効かせた上で、頻繁に水洗いしていますね。このピュリファイタイムは、使った後に金属の肌触りが少し変わる気がします。サラサラするというか。個人的にはこれを使い続けて肌がかぶれないか? とか試すのに時間が欲しいですが、この辺りは個人で判断するのが良いと思います。僕が持っているような古い時計は、一次的に預かっているに過ぎないと思っていて、買った時が一番キレイな状態だとすると、それをいかにキープして後世に残せるかが大事なこと。手入れを怠ってブレスレットなんかが使えなくなってしまったら、貴重な1本が失われてしまったということになるんです。直せる物は、直せる状態を保って使いましょうよ、と僕は考えています。ピュリファイタイムには、そういう思いや動きを助けてくれるような存在になってもらえたら嬉しいですね。

前の記事を読む
次の記事を読む
閉じる