愛好家たちの声
#06
森岡 弘
ファッションディレクター&スタイリスト
メンズクラブ、LEON、メンズEX、ForbesJapan、ENGINEなど様々な雑誌でスタイリング連載を持つファッションディレクター&スタイリスト。私物紹介の他、着こなしのルールなどを指南するYouTubeチャンネル『森岡弘の着分は上々』も更新中。
現在、多くのタレントや企業の重役のスタイリングを手掛ける森岡さん。仕事において洋服は武器であると主張し、ご自身のモノ選びの美学も徹底している。そんな名スタイリストのモノとの付き合い方を伺った。
時計は父からもらったものがいくつかあります。おそらく好きだったんでしょうね。中学校にあがったお祝いは、角型で薄いラドーの金色の時計。インデックスも4つしか付いていなくて、時間も大体しか分からないようなものをよく選んだなと思いますが、高校までの6年間着けていましたね。今も持っていますよ。
僕はこういう仕事をしているけれど、自分が本当にカッコいいなと思うものは意外と持っていないかもしれません。それは、モノはどんどん使うべきものだと思っていて、カッコよくても痛みやすいものにはなかなか手が出ないからなんです。時計に関しては3つの条件に合うものを所有しています。そのルールは、タフで機能的、それに佇まいが服を邪魔しないということ。例えば、撮影現場で急に雨が降ってきても、気にならないような時計ですね。クルマなんかも一緒でクラシックカーはカッコいいなと思いますが、付き合うとなると大変。僕は繊細な扱いができないので、自分の相棒になるようなものはたいていこの三大条件で選んでいます。
「日本一汚いポルシェ乗り」なんて言われたことがあります(笑)。クルマに限らず、キレイにしてあげたいという気持ちはあるんですが、過剰にやるのはかっこいいと思いません。高級時計を、単に高価なものとしてちやほやしたくないんです。まあ、クルマに関しては忙しくて洗車にいく時間も惜しかったという理由がありますが(笑)。身に着けるものだと、靴なんかも汚れやシワが味であるうちはそのまま使っていいと思います。逆にドレッシーすぎて汚れが味になる許容度が低く、一年に何回も使わないものは選びづらいですよね。だらしなく見えない程度にキレイにして、とにかく日常的に使うというのが僕なりの美学なんです。
だいぶ違うものですね。これは94年に結婚祝いとして父から譲り受けたものなんですが、時間が経ってくすんでいた金の色が蘇った気がします。年齢的に自分には似合わないとずっと思っていて、最近ようやく着けだしたんですがより良い時計に見えますね。スタイリングの仕事のときは神経使うのですが、お恥ずかしい話プライベートで時計のケアなんて水洗いくらいしかしてこなかったもので。
長い間、あまり使っていなかったというのもありますが、キレイになりましたね。いいですね、キレイなぶんには悪いことは何もないですから。時計は、デニムのように長く愛用できるものですが、経年変化が良いというわけではないところが違います。(専門的な経年変化による価値は別として)時計は、キレイな方が良いわけで、古いモノでもキレイに使うのが基本かなと。靴もそうですが、体の末端に着けるものには人柄が出ますから。
モノというのは、付き合うほどに愛着が深まると思うので、適度に手入れをして自分になじむようにしていくと良いですね。日本だと、若い方でも予算があると自分にふさわしくないものでもすぐに手に入れて身に着けることも多い。一方で、洋服の文化が根付いている欧米では、分相応のものを買い、自分がステップアップしたら着替えるという文化があるんです。僕は、そういうふうに自分にふさわしいものを身に着け、なじんだ姿こそが素敵だと考えています。